足し算から掛け算へ
かつてMacDTPが入ってきたころは、デザイナーに組版や製版までもコントロールする道具が手に入ったということで、最初から最後までデザイナーがMacを使って仕上げてしまうというスタイルが基本だったと思います。
うちの会社のデザイン部門は、DTP化して以来ずっとこのスタイルが基本でした。最初はMacを使う人も数人だったんですが、今では十数人になってきても、やはり一人の人が一つの仕事の最初から最後まで面倒をみる「一人一品体制」が続いていたのです。誤解をおそれずに言えば、個人営業のデザイナーが1カ所に集まって仕事をしている感じで、デザイナーの力量やキャパシティを足し算すると、うちのデザイン部門の力量が算出できてしまう感じです。
この体制は、人によって仕事の粗密が起こりやすく、ノウハウの共有や作業の標準化がしにくいという傾向があります。スタッフの数が少なければ、それなりに機能するんでしょうが、人が多くなってくると「足し算」体制の弊害が色濃くなってきてしまいました。特に一定の品質を維持するためのノウハウの共有や、効率的なワークフローについて考える事が遅れてしまったのです。なにかと言えば「人が足りない」という話になり、人海戦術で乗り切ろうと、派遣社員さんなどをお願いするわけですが、そうそう力のあるデザイナーさんが確保できるわけでもなく、確保できたとしても力のあるデザイナーさんなので「時給」も高く経費負担はバカになりません。
また、クライアントのオーダーも曖昧模糊としたものからスタートする事も多くなってきています。そのため企画・編集・原稿整理などデザインや組版する前段階の作業の比率も増える一方で、できる人に仕事が集中してしまいがちです。わかりやすく言えば、客先で打合せをしてラフや企画を立て、それが終わるとデータ作成に入り、校正を繰り返し、出力に回す…この作業が案件分あるということになります。こんなことを続けていては、デザイナーも消耗するし、経営的にも疲弊する一方です。
そこで、うちの会社では「足し算体制から掛け算体制に変えよう」と提起し、取り組みはじめました。
「掛け算体制」というのは、ディレクター × デザイナー × オペレータという役割の違う3階層のスタッフが、それぞれ必要に応じて組み合わさり仕事をこなしていこうということです。「●●さんでないとわからない」という状況をやめ、作業の仕方も標準化してゆく必要があります。当然、人の作ったデータをハンドリングする機会も増えるので、他人に渡してもわかりやすいデータの作り方が求められますし、よくないデータの作り方があった場合の相互の指摘も活発になると思っています。
また、ディレクターやデザイナーなどは、実作業で忙殺されることを極力減らし、高度化するクライアントのオーダーに柔軟に対応できるノウハウやスキルを身につけていってもらう条件を増やしたいと思うのです。ディレクターやデザイナーは正社員を軸に構築し、オペレータはパート、契約社員、派遣社員などを組み入れるなどすれば、柔軟な制作体制を確保することができるようになります。
長年染みついた「一人一品体制」を変え、足し算体制から掛け算体制に変えることは簡単ではありません。実際の仕事をこなしながら、徐々にそういう体制に移っていかねばなりません。「説明してるより自分でやった方がはやい」「自分で把握できないのは不安」という意識とも戦わなくてはなりません。でも、この方向しか今の現状を打開する方向はないと思っています。現場も「総論は賛成」です(笑)。あとは局面ごとに、案件ごとに具体的にそういう体制で進めることを貫けるかどうかです。現場の皆さんを励ましながら、一日も早く「掛け算体制」にしたいなぁと思っています。

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